なぜ、運動を繰り返すと上達するのか?|脳と神経が身体の動きを覚える仕組み
こんにちは。
三宮のパーソナルトレーニングジムTrem(トレム)、鍼灸師・トレーナーの金澤です。
自転車に乗る、ボールを投げる、スクワットをする。
最初は難しかった動きでも、
何度も繰り返しているうちに、
自然とできるようになった経験はありませんか?
反対に、久しぶりに自転車に乗っても、
意外と身体が動きを覚えていることがあります。
では、なぜ人間は運動を繰り返すことで上達するのか?
実は、運動の上達には筋力だけでなく、
脳や神経系が動きを学習する仕組みが深く関係しています。
今回は、運動を繰り返すことで身体にどのような変化が起こるのか、
科学的な視点から解説していきます。
① 運動は筋肉だけで行っているわけではない
私たちが身体を動かすとき、
筋肉は自分の判断で動いているわけではありません。
脳から神経を通じて信号が送られ、
その情報をもとに筋肉が活動することで運動が生まれます。
例えば、歩くという動作。
普段はほとんど意識していませんが、
歩行中には足の接地位置や関節の動き、
身体の傾きなど、
さまざまな情報が神経系によって処理されています。
さらに、視覚や足裏からの感覚、
身体の位置を感じ取る固有受容感覚なども利用されています。
つまり、歩くという単純に見える動作でさえ、
多くの情報を統合して成立しているのです。
運動が上達するということは、
単に筋肉が強くなるだけではなく、必要な情報を利用し、
目的に合った動きを生み出す能力が向上することでもあります。
② 繰り返すことで脳が変化する「神経可塑性」
運動の上達を理解するうえで重要なのが「神経可塑性(Neuroplasticity)」という仕組みです。
神経可塑性とは、
経験や学習に応じて脳や神経系の働き、神経回路のつながりなどが変化する性質を指します。
例えば、初めてスクワットを行う場合。
最初はバランスが取れなかったり、
適切な深さまでしゃがめなかったりするかもしれません。
しかし、繰り返し練習することで、
身体の位置や力の入れ方を少しずつ調整できるようになります。
この過程では、運動野や小脳、大脳基底核などを含む神経ネットワークが関与し、
練習に応じた変化が生じます。
DayanとCohen(2011)は、運動技能の学習に伴う脳の機能的・構造的変化について報告しています。
つまり、運動を繰り返すことは、筋肉を鍛えるだけでなく、脳が動きを学ぶ機会にもなっているのです。
③ 脳は「失敗」からも動きを学習している
運動を上達させるうえで、もう一つ重要なのが「誤差」です。
例えば、片脚立ちをしている場面。
身体をまっすぐ保とうとしても、最初は左右に揺れてしまうことがあります。
しかし、何度か繰り返すうちに、少しずつバランスを取れるようになることがあります。
これは、脳が予測した動きと実際に起こった動きの違いを利用し、次の運動を調整しているためです。
このような仕組みは「誤差に基づく学習(Error-based learning)」と呼ばれます。
運動学習には、
ほかにも成功した動作が強化される仕組みや、反復そのものによって動きが変化する仕組みが関与しています。
ここで重要なのは、失敗すること自体が悪いわけではないということです。
思い通りに動けなかった経験も、身体にとっては次の動きを調整するための情報になります。
ただし、同じ失敗を無意識に繰り返すだけで、
必ず良い動きが身につくわけではありません。
何が起きたのかを感じ取り、
必要に応じて動きを修正することが大切です。
④ 上達すると、なぜ無意識に動けるようになるのか?
初めて自転車に乗ったときなど、
ハンドルの操作、ペダルを踏むタイミング、身体のバランスなど、多くのことを意識する必要があります。
しかし、慣れてくると、
それらを一つひとつ考えなくても自転車に乗れるようになります。
これは、練習によって運動技能が習熟し、
動作の実行に必要な意識的な注意が少なくなるためです。
運動学習の初期段階では、
動作を考えながら行う場面が多くあります。
一方、習熟が進むと、
より少ない注意で安定した動作を実行できるようになることがあります。
この変化は、スポーツだけでなく、
歩行や階段の昇降といった日常生活の動作にも関係しています。
ただし、無意識にできる動作が、
必ずしもその人にとって最適な動作とは限りません。
普段から繰り返している動きには、効率的なものもあれば、見直す余地があるものも存在します。
⑤ ただ繰り返せば上達するわけではない
ここまで運動の反復について説明してきましたが、実は同じ動作を何度も繰り返すことだけが、
効果的な練習方法とは限りません。
2024年に発表された54研究を対象としたメタ分析では、
異なる運動課題を組み合わせる練習方法が、
技能の保持に有利に働く場合があると報告されています。
ただし、その効果は年齢や練習環境によって異なり、
実際の運動場面では必ずしも大きな効果が確認されているわけではありません。
例えば、スクワットを練習する場合。
同じ条件で繰り返すことは、基本的な動きを習得するうえで役立ちます。
一方、習熟度に応じて動作速度や負荷、
足幅などの条件を変えることも、異なる状況に対応する能力を育てる練習になり得ます。
大切なのは、単純に回数を増やすことではありません。
何を習得したいのかを明確にし、
その目的に合った練習を繰り返すことです。
⑥ 運動の上達は、練習していない時間にも進む
運動学習は、実際に身体を動かしている時間だけで完結するわけではありません。
練習によって得られた情報は、
その後の休息や睡眠を含む時間の中で整理・安定化されることがあります。
これを「記憶の固定化(Consolidation)」
と呼びます。
運動学習に関する研究では、
練習終了後にも技能が安定したり、
条件によってはパフォーマンスが改善したりする現象が報告されています。
つまり、練習と休息は別々のものではなく、
どちらも運動学習を支える重要な要素なのです。
毎回限界まで練習することが、
必ずしも最も効率的な上達方法とは限りません。
まとめ|身体は繰り返すことで「動き方」を学んでいる
運動を繰り返すことで上達するのは、
筋肉が強くなるからだけではありません。
脳や神経系が経験を積み重ね、動作を予測し、
誤差を修正しながら、目的に合った身体の動かし方を学習していくためです。
そして、その学習には反復だけでなく、
感覚情報や練習条件、休息なども関係しています。
Tremでは、単に筋肉を鍛えるのではなく、
身体がどのように動いているのかを評価し、
一人ひとりに合った運動を提供することを大切にしています。
大切なのは、ただ身体を動かすことではなく、
身体がより良く動けるように学習していくこと。
運動は、何歳になっても新しい動きを学ぶ機会になります。
日々のトレーニングを、筋肉だけでなく「脳と身体の学習」という視点から考えてみてはいかがでしょうか。
参考文献
1. Dayan, E., & Cohen, L. G. (2011). Neuroplasticity subserving motor skill learning. Neuron, 72(3), 443–454.
2. Krakauer, J. W., et al. (2019). Motor Learning. Comprehensive Physiology, 9(2), 613–663.
3. Czyż, S. H., et al. (2024). High contextual interference improves retention in motor learning: systematic review and meta-analysis.
4. Kantak, S. S., & Winstein, C. J. (2012). Learning–performance distinction and memory processes for motor skills: A focused review and perspective. Behavioural Brain Research, 228(1), 219–231.


